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仙台高等裁判所 昭和31年(ラ)20号 決定 1956年10月29日

抗告人 市川喜平

相手方 前川進

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は要するに

一、本件家屋収去の強制執行は昭和三十一年三月二十九日及び翌三十日の二日にわたり相手方の委任した執行吏の手により該家屋の一部を取り毀つことによつて行われたが、これには代替執行の授権決定がなかつた。尤も同月三十日相手方より右につき代替執行の申立があり、同年四月二日原審裁判所より授権決定があつたことは認めるが、これあることによつて先になされた不法な取毀ち執行が正当視されるものではない。仮に正当視されるとしても右授権決定には右家屋の収去を第三者にせしめるとあつて執行吏にこれを命じていないから執行吏による前記のような執行はその遵守すべき職務規範を無視してなされたもので不当である。従つて、これを維持した原決定も不当である。

二、又原決定は右授権決定のあつたことにより本件異議を維持すべき効果がなくなつたとの理由でこれを却下したがかくては本件異議の申立により停止されていた本件執行はその停止が解けて再開されるに至るし、一方右授権決定により更に第三者をして執行せしめることともなり、執行吏と第三者による二重の代替執行が実行される結果を招来し、いらざる執行費用を要し且つ債務者を二重執行の危険に晒す点からいつて極めて不当である。

以上の次第で原決定の取消を求めるため本抗告に及ぶ

というにある。

よつて抗告理由一の点につき案ずるに、本件記録に徴すれば相手方が相手方と申立外菊池三之亟、菊池ヨシノ間の盛岡地方裁判所遠野支部昭和二十八年(ユ)第二号土地明渡調停事件の執行力ある調停調書正本に基き代替執行の授権なしに執行吏畑与介に委任して昭和三十一年三月二十九、三十日の両日にわたり本件家屋の一部につき取毀の代替執行をしたこと及び相手方が同月三十日右菊池三之亟、菊池ヨシノの承継人として本件家屋につき代替執行の申立をなし、これに対し原審裁判所が正当な手続を経て審査のうえ同年四月二日授権決定をしたことが認められる。それなら右授権なしになされた右代替執行は違法であり、それが執行吏によつて行われた場合執行方法の異議の対象となること勿論であるが、その後右のような有効な授権決定があつた以上債務者たる抗告人において本件異議によつて右執行不許の決定を得ても結局右授権に基いて改めて同じ執行が繰り返されることになるのであるから、格別の事情のない限り抗告人において右異議を主張する利益がなくなつたものといわなければならない。又代替執行の授権における第三者とは必ずしも執行吏を排除するものではなく、授権決定が直接執行吏に執行を命じた場合は勿論、単に第三者に執行を命じた場合においても債権者が第三者として執行吏を選べば当該執行吏は当然執行ができるのであつてそこに職務規範違反の廉はない。この点の抗告人の主張はいずれも失当である。

次に抗告理由二の点につき案ずるに抗告人は原裁判所が本件異議を却下することによつて執行吏と第三者による二重の代替執行が実行されることになるというけれども、原裁判所は本件代替執行について前記授権決定をしたのであつて、前後二つの代替執行につき二重に授権の決定をしたのではないから二重の代替執行がなされるいわれはない(若し事実上二重の執行がなされるとすればその時においてどちらかの執行が不当として攻撃されるべきであるがそれは別問題である)。右主張も失当である。

以上のとおりであつて、その他原決定にはこれを取り消すべき瑕疵のあることは認められないから原決定は相当であつて本件抗告はその理由がない。よつて民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 村木達夫 石井義彦 上野正秋)

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